2014年07月25日

もやもや病について(2)

本疾患は原則両側性に起こるが、その程度は様々である。

一方の内頸動脈の狭窄は重度であるがもう一方は極めて軽度であるということもある。

以下に小児と成人の初発症状で多いものを示す。



●小児例

反復性の頭痛

脱力発作

痙攣

失神



●成人例

脳出血

片麻痺

頭痛

意識障害



●もやもや病の合併症

小児例では知能障害、成人例では脳出血



●もやもや病の原因

原因となる感受性遺伝子はRNF213遺伝子の多型p.R4810Kである。

(感受性遺伝子とは疾患への感受性を高める遺伝子をいい、遺伝子異常だけで起こる原因遺伝子とは区別される。)


RNF213をクローニングしたゲノムは591-kDaの細胞質に存在するタンパクをコードしており、ゼブラフィッシュによって発達期にこの遺伝子の発現を抑制すると、頭蓋内の眼動脈や脊椎動脈の分岐の異常が出ることから、血管形成に重要な新たな遺伝子であることも分かった。

また、この遺伝子を持っている人が全て発症するわけでなく、環境要因の関与も疑われている。

さらにp.R4810Kは推定1万5千年の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることも分かり、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子であることも分かった。


(特定までの流れ)

2008年 15家系を用いた研究で、17番染色体の長腕の終末部領域に100個以上の遺伝子が存在することを見出し報告された。

2010年 17番染色体の長腕の終末部領域の遺伝子「Raptor」を道しるべとして原因遺伝子が検索できることが報告された。

2011年 17番染色体の候補領域にあるRNF213という遺伝子の4810番目のアルギニンがリジンに代わる多型(p.R4810K)が機能異常に結びつく多型と結論づけられた。




●もやもや病の統計

年間発症率は10万人あたり0.35-0.5人と推定されている。

日本では年間約400-500人程度の新患の登録があり、常に約4000人の患者がいる。

男女比は1:1.7、好発年齢は5歳と30〜40歳の2峰性を示す。

小児では脳虚血症状が多いのに対して成人では出血発症が多い。

約15%に家族歴があるとされている。




●もやもや病の疫学

原因遺伝子のp.R4810kは、およそ1万5000年前のアジア大陸における祖先においてもやもや病感受性変異が起きたとされ、アジア、特に中国、韓国、日本人に多く確認されている疾患であり、中でも日本が最も患者数が多い。

欧米・白人集団では原因となるp.R4810Kが確認されないことから発生頻度が極めて少ない。



一次予防

DNA型鑑定により早急に手術適応のある症例かどうかを判断する指標(遺伝子マーカー)の有無を調べることが最も有効とされている。

遺伝子マーカーは現在解明されているものでR213遺伝子の多型であるc.14576G>Aがある。

この多型を所持する場合のもやもや病発生リスクは通常の259倍である。

さらにこの多型はもやもや病の発生時期も予測しうる遺伝子マーカーである。

c.14576G>Aがホモ接合体の場合の予測発症時期は3歳前後、ヘテロ接合体の場合は7歳前後、そのどちらでもない野生型の場合は8歳前後となっている。

(ホモ接合型:父母由来のそれぞれの遺伝子座の両方に同じ変異がある状態。ヘテロ接合型:父母由来の遺伝子座のどちらか一方にのみ変異がある状態。野生型:正常な(本来の)機能を有するもの。詳しくは対立遺伝子の項目)



二次予防

片頭痛や癲癇として見逃されている例が多いため、繰り返す頭痛や痙攣発作がある場合はもやもや病を疑い、MRIやMRAと合わせてDNA型鑑定を受ける。



三次予防

激しい運動は脳虚血や脳出血を誘発する恐れがあるため、極力避けるようにする。




●もやもや病の診断

原則は脳血管撮影で診断するが、MRI並びにMRAできちんと診断基準を満たせば、必ずしも脳血管撮影は必要としない。

ただし病期が初期であった場合には、MRAでは確認が難しいことが多いので注意を要する。


●もやもや病の治療

内科的治療(薬物治療など)ではこれまで有効とされてきた治療法はない。

ただし虚血例に対しては抗血小板療法、出血例では高血圧治療などが行われる。

外科的治療に関しては、一過性脳虚血発作例に対して脳血行再建術を行う。

これには直接的にバイパスを作る術式(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が一般的)と、間接的にバイパスを作る術式(脳表に筋膜や翻転した硬膜、骨膜などを敷きこんで血管新生を期待する)、並びに両者を併用する術式がある。

一方、成人に多い出血発症例に対して脳血行再建術を行うかどうかは、現在日本でJapan Adult Moyamoya Trial (JAM trial)が進行中であり、この結果が待たれる。


●もやもや病の予後

小児例での急速進行例では、重篤な知能障害が後遺症として残ることが多い。

成人例では、脳出血を起こした後に再出血し死亡率が高い。


以上



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2014年07月24日

もやもや病について

●もやもや病

もやもや病(もやもやびょう、英称:moyamoya disease)は、脳底部に異常血管網がみられる脳血管障害。

脳血管造影の画像において、異常血管網が煙草の煙のようにモヤモヤして見えることから、日本人研究者の鈴木二郎と高久晃の研究論文 Cerebrovascular "Moyamoya" Disease: Disease Showing Abnormal Net-Like Vessels in Base of Brain: Jiro Suzuki, Akira Takaku; Arch Neurol. 1969; 20(3): 288-299. により「もやもや病」と命名された。

これまで、厚生労働省の正式な疾患呼称は、ウィリス動脈輪閉塞症(ウィリスどうみゃくりんへいそくしょう)であったが、2003年から厚生省難病研究班の正式名称ももやもや病となり、もやもや病という病名が正式なものとして認証された。





●もやもや病の定義

もやもや病の本質的な病態は、内頸動脈終末部の進行性狭窄・閉塞である。

もやもや血管は主幹動脈の閉塞により代償的に穿通枝などが異常に拡張した側副血行路である。

診断基準によれば脳血管造影で以下の所見を呈するものをいう。

頭蓋内内頸動脈終末部、前・中大脳動脈近位部に狭窄または閉塞がある狭窄または閉塞部分付近に異常血管網が発達している

このような現象が両側性に見られる




●もやもや病の症状・病態

脳の動脈に狭窄があると、当該血管支配領域の脳は血液不足(虚血)に陥る。

そこで代償的に新たな血管(もやもや血管)が構築される。

しかしこれらの血管は細く、脳虚血・または脳出血に起因する種々の発作の原因となる。



虚血の発作は過換気が原因で起こる。

過換気状態になると血液中の二酸化炭素分圧が低下する。

二酸化炭素は血管を拡張させる働きがあるので、これが減少すると血管が収縮する。

すると、元々細い異常血管網(もやもや血管)はさらに収縮を起こして脳に送るべき酸素の供給が不足する状態になる。

こうして失神や脱力発作が起こる。典型的な過換気状態は、熱い蕎麦やラーメンなどを冷ます「吹き冷まし」行為や、啼泣、リコーダーやピアニカなどの吹奏楽器演奏時など、必要以上の呼吸を伴う動作で発生するため、注意を要する。


また、成人発症例では動脈硬化が関与して狭窄を引き起こすものと考えられている。


一方出血の発作は、脳の血液需要に応じるための大量の血液を送る血管(もやもや血管)が細いために破綻するものと考えられている。

成人発症例に多い。



出血箇所が悪い場合、致命傷となる。

また、成人に近い成長期に出血すると脳全体に脳浮腫(加速的な腫れ)を発症し、多くの場合、助からない。

最も留意すべきは補助的に作られた即席・もやもや血管は壁が薄く破れやすい所にある。

本疾患は原則両側性に起こるが、その程度は様々である。

一方の内頸動脈の狭窄は重度であるがもう一方は極めて軽度であるということもある。

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