2014年07月04日

●脊髄小脳変性症とは?(3)

●脊髄小脳変性症とは?(3)


●SCA6

第19番染色体短腕に位置する電位依存性Caチャネルα1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A)のCAGリピート伸長により発症する常染色体優性遺伝性の脊髄小脳変性症である。

ポリグルタミン病の一つである。

CAGリピート数は20以上で異常伸長である。

日本においては遺伝性脊髄小脳変性症の2〜3割を占める。

発症の平均年齢は45歳と比較的高齢であり、ほぼ純粋な小脳失調を呈する。

画像上は小脳虫部に上面に強い小脳萎縮が認められる。

脳幹や大脳は保たれる。

小脳のプルキンエ細胞、顆粒細胞、延髄下オリーブ核の神経細胞に強い変性が及ぶ。

変性は小脳虫部上面のプルキンエ細胞に強い。

神経細胞には変異Caチャネルα1Aサブユニット蛋白の凝集体を認める。

これらの封入体はプルキンエ細胞のみに存在し、主に細胞質内に存在し、抗ユビキチン抗体陰性である。

他のポリグルタミン病では核内に封入体形成するため特徴的な所見である。

なおCACNA1Aは反復発作性失調症2型(EA2)と家族性片麻痺性片頭痛の原因遺伝子でもある。


●SCA31

第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。

感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。

世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。

日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。

日本に固有のSCAであり、家族性脊髄小脳変性症の27.4%におよぶ。

同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。

高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。

2009年に原因遺伝子の同定がされ、BEAN(brain expressed assosiated with NEDD4)とTK(thymidine kinase 2)がイントロンとして共有する位置に挿入された5塩基の繰り返し配列が原因と判明した。

これは非翻訳領域のおけるリピートであり、伸長RNAリピートが、その結合蛋白と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し核内蛋白制御異常をもたらすことが主な病態と考えられている。

同様のRNAリピート病の病態を示すものとしては筋強直性ジストロフィーなどがあげられる。

病理学的には肉眼所見では小脳虫部上面に萎縮が認められる他は著変はない。

ミクロ所見では小脳虫部の前方部分を中心にプルキンエ細胞の脱落などの変化が著明であった。

下オリーブ核を含めて脳幹や大脳には異常所見はなく、HE染色では残存したプルキンエ細胞のまわりを厚い好酸性の物質が囲んでいるのがみえる。

calbindin-D28kとsynaptophysinに対する免疫染色で陽性を示す。

プルキンエ細胞の成分と他の神経細胞からの神経前終末が存在すると考えられている。

他の疾患ではみられないSCA31に特異的に認められる病理所見である。

またプルキンエ細胞核内にリピートRNA凝集体を認める。

これは同じRNAリピート病であるSCA8やSCA10と同様の所見である。


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2014年06月30日

脊髄小脳変性症とは?(2)

●脊髄小脳変性症とは?(2)


●遺伝性

遺伝性脊髄小脳変性症は優性遺伝のものと劣性遺伝のものがあり、原因遺伝子によって分類される。

欧米では劣性遺伝のものが多いが、日本では圧倒的に優性遺伝が多い。


2009年現在脊髄小脳変性症は31型まで報告されている。

従来、遺伝性OPCAまたはMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの多くはSCA1、SCA2、SCA3のいずれかであり、遺伝性皮質性小脳萎縮症またはHolmes型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの半数はSCA6であり、残りの多くはSCA31であったと考えられている。

Hardingの分類では常染色体優性遺伝性小脳失調(ADCA)を3群に分けている。

ADCAT群は錐体路障害や錐体外路障害、末梢神経障害や認知症を伴い、ADCAU群は網膜黄斑変性症を伴う、ADCAV群は純小脳失調である。

日本ではSCA3が最も多く、次いでSCA6、SCA31が多い。

欧米に比べてSCA1、SCA2は少ない。

劣性遺伝のものは全体に1.8%程度である。EAOHが半数をしめる。



●1.常染色体優性遺伝 脊髄小脳失調症1型(SCA1)

脊髄小脳失調症2型(SCA2)

脊髄小脳失調症3型(SCA3、通称:マシャド・ジョセフ病)

脊髄小脳失調症6型(SCA6)

脊髄小脳失調症7型(SCA7)

脊髄小脳失調症10型(SCA10)

脊髄小脳失調症12型(SCA12)

脊髄小脳失調症は2012年現在で36型まで発見されている。

歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)




2.常染色体劣性遺伝

フリードライヒ失調症(FRDA)

ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED)

眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性小脳失調症(EOAH)

※日本ではマシャド・ジョセフ病の患者が最も多い。



●SCA1

第6染色体にあるataxin-1遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸展が原因である。

1974年に日本の矢倉らによりSCA1の遺伝子座第6染色体のHLA上に連鎖することが発見された。

異常リピート数は39以上である。

日本では東北、北海道に多く、東北と北海道の例には創始者効果も認められる。

発症年齢は若年〜中年期と比較的幅が広いが30〜40歳代の発症が多い。

歩行障害などの小脳性運動失調で発症し、根音障害、嚥下障害などに加え、眼球運動障害、腱反射亢進などの錐体路徴候、錐体外路徴候、認知機能低下などが出現する

。従来Menzel型遺伝性脊髄小脳変性症と言われていたものの大半はSCA1、SCA2、SCA3のいずれかに含まれると考えられている。

SCA1の臨床的な鑑別には錐体路、錐体外路徴候およびの眼の徴候が重要となる。

SCA1はSCA3程眼振が目立たず、ジストニアや痙性も目立たないのが特徴である。

病理学的には小脳皮質、歯状核、脳幹などに変性が認められる、異常伸長ポリグルタミン病を認識する抗体(IC2)を用いた免疫染色では神経細胞核内に変異ataxin-1蛋白質の封入体が認められる。頭部MRIでは小脳萎縮や脳幹萎縮が認められる。




●SCA2

SCA2は第12染色体にあるataxin-2遺伝子内のCAGリピート配列の異常が原因と考えられている。

異常リピート数は32以上である。発症は30〜40代が多い。

小脳性失調で発症し早期から緩徐眼球運動、末梢神経障害を含む腱反射の低下が認められるのが特徴である。

錐体外路症状としてパーキンソン症候群、ミオクローヌス、ジストニア、ミオキミアといった不随意運動なども認められることがある。

緩徐眼球運動と腱反射の低下がその他のMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症のとの鑑別で重要視される。

緩徐眼球運動では比較的なめらかな緩徐な追従運動は保たれているが随意性、反射性ともに速い眼球運動は障害される。

主に水平性眼球運動が障害される。頭、眼の共同運動は保たれる。

輻湊運動は障害されない。固視反射の増強がみられるという特徴がある。

病理学的には小脳皮質、大脳基底核、脳幹、脊髄の変性を認める。

抗ポリグルタミン抗体のIC2陽性の核内封入体を認める。

頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮が認められる。



●SCA3

かつてはMarie病(spinopontine atrophy)として分類されていた疾患である。

SCA3とMJD(Machado-Joseph病、マジャド・ジョセフ病)は当初は別の疾患として報告されていたが両者の原因遺伝子が同一であったという経緯からMJD/SCA3と記載されることがある。

MJDはポルトガル領アゾレス諸島出身者に伝わる稀な遺伝性運動失調症とされていた。

1970年台に最初に報告さえた3家系Machado家、Thomas家、Joseph家がいずれもポルトガル領アゾレス諸島から米国への移民であったためそのように考えられた。

SCA3はフランスのグループにより報告されていた。

原因遺伝子は第14番染色体長腕に存在するMJD1遺伝子である。

MJD1遺伝子はataxin-3をコードしているが、このたんばく質の機能は不明である。

CAGリピートの延長が発病に関与するトリプレットリピート病である。



日本でも欧米でも優性遺伝性脊髄小脳変性症(ADSCD)で最も頻度が高い疾患である。

異常リピートは53以上で病的となる。古典的には臨床症状から4病型に分類される。

これは発症年齢によって臨床症状が異なり、若年発症では錐体外路症状が目立ち、高齢になるほど小脳失調と末梢神経障害が目立つという経験からの分類である。

しかしSCA3のスペクトラムは広く、非典型例としては痙性対麻痺型や純小脳失調型なども報告されている。


病理学的には小脳歯状核、大脳基底核、脳幹、脊髄特に胸髄の変性は認められるが、小脳皮質は比較的保たれる。

歯状核神経細胞は萎縮し、プルキンエ細胞の神経終末の二次的変性であるグルモース変性が認められる。

この変性は小脳皮質が比較的保たれ、かつ歯状核神経細胞の萎縮があるときに認められる所見である。

抗ポリグルタミン抗体IC2陽性の核内封入体を認める。

淡蒼球は内節優位に障害されるため淡蒼球外節優位に障害されるDRPLAとは異なるが両者の区別は遺伝子検査が有用である。

頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮(特に被蓋部)が認められる。

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2014年06月26日

脊髄小脳変性症とは?(1)

●脊髄小脳変性症とは?(1)

脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう、英:Spinocerebellar Degeneration (SCD))は、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称である。

小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく病気であり、1976年10月1日以降、特定疾患に16番目の疾患として認定されている。

また、介護保険における特定疾病でもある。



●脊髄小脳変性症の概要

1863年フリードライヒにより梅毒感染による脊髄癆より分離されるかたちでフリードライヒ運動失調症が記載されることで確立した疾患概念である。

1986年の調査では10万人に5〜10人の割合で発症すると推定されている。

2000年現在で日本では2万人弱の患者がいると考えられている。

日本では遺伝性が30%であり、非遺伝性が70%である。

欧米と異なり遺伝性のSCAは大部分が優性遺伝である。

主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。

非常にゆっくりと症状が進行していくのが特徴。

10年、20年単位で徐々に進行することが多い。

だが、進行の速度には個人差があり、進行の早い人もいる。

遺伝性のものは孤発性よりも若年発症が多いが、DRPLAを除き孤発性よりも予後はよいとされている。



●脊髄小脳変性症の分類

●孤発性

非遺伝性(孤発性)脊髄小脳変性症は大きく多系統萎縮症(MSA)と孤発型皮質小脳変性症(CCA)およびその他の症候性小脳変性症に分類される。

多系統萎縮症はかつてはオリープ橋小脳変性症(OPCA)、線条体黒質変性症(SND)、シャイドレーガー症候群(SDS)と呼ぼれていたものであるが、患者のグリア細胞内にGCIという嗜銀性封入体が共通して認められたため疾患概念が統一された。


●孤発性皮質性小脳変性症(皮質性小脳萎縮症 CCA)

皮質性小脳萎縮症(CCA)は成人発症、孤発性脊髄小脳変性症の一病型であり純粋小脳失調症をしめす。

単一疾患としては未確立であり病因的にはheterogeneousな症候群である。

1922年にMarrieらの報告がCCAのはじまりである。

病理像はほぼ小脳皮質に限局する萎縮、全般性のプルキンエ細胞変性脱落、グリオーシスを主徴とする。

これに下オリーブ核の変性や分子層、顆粒層の変性が加わることもある。当初は病理学的確立し、対極に位置したのがオリーブ橋小脳変性症であり多系統萎縮症であった。特にMSA-Cは初期はCCAと鑑別が困難な場合もある。CCAは孤発性であるが非遺伝性とは限らず、CCA症例にSCA6やSCA31といった遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子変異が見出されることがある。今後もCCAから新たな遺伝子変異が見出される可能性がある。CCAは除外診断で行うのが原則である。まずは詳細な病歴、生活歴、家族歴の聴取を行う。画像診断では腫瘍性疾患に加え先天性奇形などの構造的疾患を除外する。中毒性、代謝性疾患、傍腫瘍性神経症候群や抗GAD抗体による免疫介在性小脳症候群を除外する、そしてMSAを除外するとい流れになる。発症から4年以内に小脳外症状を示さない場合はMSAの可能性は低いと考えられる。



●症候性皮質小脳変性症

症候性の小脳変性症の原因としては、アルコール性、薬剤性(フェニトインなど抗癲癇薬、リチウム、抗うつ薬、5-FUなど)、中毒性(有機水銀、鉛、農薬、溶剤など)、内分泌性(甲状腺機能低下症)、傍腫瘍性小脳変性症、感染症後遺症(急性小脳炎)、ビタミン欠乏症(ビタミンE、B12)、免疫介在性(抗GAD抗体、セリアック病)などが知られている。


●多系統萎縮症(MSA)

多系統萎縮症はオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、Shy-Drager症候群を包括する概念として1969年にGrahamやOppenheimerらによって提唱された。

1989年に米国のPappらがMSAでは臨床病型に関係なく100%の例でオリゴデンドログリアに嗜銀性封入体が出現することを報告し疾患概念として確立した。

この封入体がグリア細胞質内封入体(GCI)と呼ばれMSAに特異的な封入体である。

1998年にはGCIがα-シヌクレイン陽性となることが報告され、MSAはパーキンソン病やレビー小体病とともにαシヌクレノパチーという新たな疾患概念を形成することになった。


2008年に第二回コンセンサス会議が行われ診断基準が改定された。

Gilmanらによって提唱された診断基準では臨床病型は小脳失調の強いMSA-Cとパーキンソン症候群が強いMSA-Pに分かれるが、これは患者の評価時点での主症状を示すだけある。


また発症はパーキンソン症状または小脳運動障害、あるいは疑い例の基準で定義された自律神経症状を自覚した時とされている。



MSA-CとMSA-Pの相対的頻度は地域や人種の違いによって異なる可能性がある。

ヨーロッパではMSA-Pが多いが日本ではMSA-Cが多い。

神経病理学ではMSA-Cでは下オリーブ核、橋核、小脳皮質(プルキンエ細胞)にMSA-Pでは被殻の背外側部と黒質に高度の神経細胞脱落とグリオーシスが認められる。

さらに自律神経系(視床下部、迷走神経背側核、脊髄中間質外側核、脊髄オヌフ核)にも神経脱落が認められる。



突然死の責任病巣としては延髄のセロトニンニューロンの脱落が指摘されている。

しかし、これらの系統が単独で障害される例が存在せず、実際にはオリーブ橋小脳系、線条体黒質系、自律神経系の3系統が様々な程度と組み合わせで障害される。

どの系統が最も早期から障害されるかによって臨床的病型が決定される。

運動ニューロン系(大脳運動野、錐体路、脊髄前角)もMSAの病変部位となる。

また前頭葉、側頭葉の萎縮、大脳白質広範変性などが認められる場合もある。

グリア細胞内封入体(GCI)はオリゴデンドログリアに認められMSAの病理診断では必須である。


GCIはHE染色では淡いピンク色であり見落としやすいがガリアス染色またはαシヌクレイン免疫染色を用いると明瞭に検出できる。

GCIは異常フィラメントが集簇した構造物である。

GCIは中枢神経系に広範に分布し、特に神経細胞脱落を呈する神経核ならびにその投射線維に多い。

GCIが多く認められる部位としては線条体とその周囲の白質、橋底部とそれに連続する白質、大脳運動野とその皮質下白質などである。



MSAではオリーブ橋小脳系でも線条体黒質でも線条体黒質系でもGCIの出現数と神経脱落の程度は相関している。

MSAにおけるもっとも早期の変化はオリゴデンドログリアにおけるαシヌクレインの蓄積、凝集でありその後、ミエリン、軸索の変性を経て神経細胞死と向かうと考えられている。

GCIは脳広範に出現し、広範にオリゴデンドログリアが障害されることでMSAの多系統の障害は説明される。


GCIを含むオリゴデンドログリアでは核内にも点状ないし線状の封入体、GNIが認められることもある、また神経細胞質内封入体であるNCI、神経細胞核内封入体NNIや神経突起内にneuropil threadsなど知られている。

GCI、GNI、NCI、NNI、neuropil threadsという5種類の構造物が知られている。

GCIの増加と広がりに伴いNCIも増加しやがて神経細胞脱落が認められる。



パーキンソン病とMSAでは蓄積するαシヌクレインの化学的構造は同一と考えられている。

パーキンソン病ではレビー小体の形成過程が観察されるがMSAのGCIは形成過程が観察されない。

パーキンソン病ではグリア内蓄積はあるが核内蓄積は認められないがMSAではGNIなど核内蓄積がある。

αシヌクレイン遺伝子の異常はパーキンソン病は起こすがMSAは起こさないといった違いが認められる。


(続く)
posted by ホーライ at 06:48| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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