多発性硬化症(たはつせいこうかしょう、英: multiple sclerosis; MS)とは中枢性脱髄疾患の一つで、脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患である。
日本では特定疾患に認定されている指定難病である。
●多発性硬化症の疫学
中枢性脱髄疾患の中では患者が最も多い。
北米、北欧、オーストラリア南部では人口10万人当たり30〜80人ほど罹患しているが、アジアやアフリカでは人口10万人当たり4人以下で、人種によって罹患率に大きな差があることが特徴である。
南米、南欧、オーストラリア北部はその中間である。全体としては高緯度のほうが罹患率は高く、日本国内でも北海道と九州では北海道のほうが高い。
日本での有病率は増加してきており、10万人あたり8 - 9人、人口辺り約12,000人程度であることが2006年神経免疫班会議で報告されている。
罹患のピークは30歳頃であり、約80%が50歳までに発症する。また女性に多い。
●多発性硬化症の原因
さまざまな説が唱えられているが未だ原因は不明である。
このうち遺伝、自己免疫、ウイルスなどの感染の可能性が高いと思われている。
・遺伝
アジア・アフリカ系と欧米系で罹患率が大きく異なることから遺伝的要因が示唆されている。
罹患率の高い地域に住む先住民の罹患率が高いわけではないということは遺伝説を支持する要因だが、罹患率の少ないとされる日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られている。
家族内での発症は決して高いわけではなく、複数の遺伝子が発症に関わると思われている。
・感染
再発と寛解を繰り返すという病態からウイルス感染が疑われている。
しかし、今まで報告されたウイルスは数多くあるものの、どれも特異的な関連ははっきり示されてはいない。
・自己免疫
根拠は不十分であるものの、免疫異常を疑わせる所見がいくつか見られる。
以下にその一例を示す。病巣の周囲にリンパ球やプラズマ細胞が集まっている
免疫グロブリンが沈着
サプレッサーT細胞が減少し、ヘルパーT細胞のTh1タイプが増加
免疫抑制剤が治療に有効
日本をはじめとするアジア地域では、視神経と脊髄を病変の主体とする比較的症状の重い視神経脊髄型多発性硬化症が多いとされてきたが、2004年に多くの視神経脊髄型多発性硬化症の血液中に特異的な自己抗体が存在することが発見された。
その後、この自己抗体はアクアポリン4(AQP4)という水チャンネルを認識することがわかり、容易に測定可能となった。
現在、視神経脊髄型多発性硬化症は欧米の視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica)と同一病態と考えられている(下記項目も参照のこと)。
●多発性硬化症の分類
自然経過から多発性硬化症は再発寛解を繰り返す再発寛解型MS(RRMS:relapseing-remitting MS)と発症当初から慢性進行性の経過をたどる一次性進行型MS(PPMS:primary progressive MS)に大別される。
再発寛解型MS(RRMS)の約半数は発症後15〜20年の経過で再発がなくても次第に障害が進行するようになり二次性進行型MS(SPMS:secondary progressive MS)という名称となる。
再発は炎症過程を示しており進行は変性過程を示していると考えられている。
欧米白人ではRRMSが80〜90%でありPPMSが10〜20%を占めるが日本人ではPPMSは5%前後である。
RRMSとPPMSは治療に対する反応性の違いから異なる疾患とする立場と、長時間の自然経過の観察に基いてRRMSもPPMSも同じような年齢で同様な障害度に進行することから、1つの疾患の異なる表現型とする立場がある。
EDSSスコアで4に達するまでの期間(進行のスピード)は病型によって異なるがスコア4からスコア6に至る期間は病型は再発の有無に関係なく一定である。
スコア6にはPPMSでは49歳、RRMS/SPMSでは48歳であり、スコア8に達するのはともに58歳である。
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