●脊髄小脳変性症の治療法
分子病態の解明にもかかわらず脊髄小脳変性症のほとんどの疾患は根治的な治療法が確立されていない。
症状の緩和としていくつかの治療が知られている。
薬物療法
運動失調に対する治療
TRH製剤である酒石酸プロチレリン(ヒルトニン)やTRH誘導体(アナログ)であるタルチレリン水和物(セレジスト)が脊髄小脳変性症の運動失調に認可されている。
酒石酸プロチレリンもタルチレリン水和物も二重盲検比較試験で運動失調に対する有用性が確認されている。
しかし酒石酸プロチレリンの正確な分子病態は解明されていない。
α1Aカルシウムチャネル遺伝子異常によって生じた小脳失調マウスでの研究では、小脳のノルアドレナリンの代謝回転促進作用や間脳、脳幹、小脳で低下したグルコース代謝の正常化作用が関与していると報告されている。
これらの薬物はTSH分泌反応が低下する恐れがあるため甲状腺ホルモン値の確認が必要である。
酒石酸プロチレリンは0.5〜2.0mgを筋肉内注射か生理食塩水で5〜10mlに希釈して静脈内注射する。
これを1日1回14日間施行し、14日間の休薬が1クールとなる。
10日間以上投与すると効果がでるとされている。
また3日投与、3日休薬で1クールとする方法も6ヶ月以上継続すると有効とされている。
その他の効果が期待される薬物としてはプレガバリン、ガバペンチン、リルゾールなど多数が知られている。
磁気刺激療法がSCA6など小脳失調型脊髄小脳変性症の改善に有効という報告もある。
パーキンソン症候群に対する治療
振戦や筋固縮の対症療法に使われる。
また脳内に電極を埋め込み、電気刺激を与えるパーキンソン病への治療法が、SCD患者の振戦にも同じ効果があるとして振戦のひどい患者に対して手術が行われる場合もある。
自律神経超節薬
代表的なものとして、起立性低血圧の対症療法にジヒドロエルゴタミンやドプスなどが使われる。
鎮痙薬
筋弛緩薬などが用いられることもある。
●脊髄小脳変性症の原因と予後
遺伝性のものは、近年、原因となる遺伝子が次々と発見されており、それぞれの疾患とその特徴もわかりつつある。
常染色体優性遺伝のもので最も多く見られるのは、シトシン・アデニン・グアニンの3つの塩基が繰り返されるCAGリピートの異常伸長であることが判明した。
CAGはグルタミンを翻訳・発現させるRNAコードだが、正常な人はこのCAGリピートが30以下なのに対し、この病気の患者は50〜100に増加している。
CAGリピートの数が多ければ多いほど、若いうちに発症し、症状も重くなることが分かりつつある。
この異常伸長により、脳神経細胞がアポトーシスに陥ることが近年の研究で分かりつつある。
孤発性の多系統萎縮症に関しても、オリゴデンドログリアや神経細胞内に異常な封入体が存在することが分かっていたが、その主成分が、パーキンソン病患者の脳細胞に見られるレビー小体の構成成分でもあるα -シヌクレインというたんぱく質の一種であることが判明した。
現在はその蓄積システムの研究が両疾患の研究スタッフの間で進められている。
だが、具体的な原因が完全にわかるまでには相当な時間がかかることが予想される。
また、現段階で根本的な治療法が確立されているのはビタミンE単独欠乏失調症のみであり、他の疾患に関しては薬物療法やリハビリテーションといった対症療法で進行を抑えるしかないのが現状である。
運動神経の変性によって転倒の危険が増すため、リハビリ、特に手足腰の筋肉を鍛えることで大きなけがを防ぐ事に繋がるので、ウォーキングや筋力トレーニングは毎日かかさない方が体がスムーズに動かせる。
病気の進行は緩慢であるため、10年、20年と長いスパンで予後を見ていく必要があり、障害が進行するにしたがって介護が必要になるケースも出てくる。
遺伝子検査を行って、遺伝性か否かを判定するには、採血による遺伝子検査方法によって2週間ほどで判定できる。
しかし、発病前の遺伝子検査、また親が検査を受けることによって遺伝性が判明した場合、子供達に遺伝病のキャリアであることを宣告することになるので慎重な対応が求められる。
●社会的影響
この病気を患った木藤亜也の日記を本にした『1リットルの涙』が2006年に210万部の売り上げを誇るヒットとなった。
また、同作品は映画化(大西麻恵主演)、テレビドラマ化(沢尻エリカ主演)されている。
以上
ラベル:脊髄小脳変性症