●脊髄小脳変性症の症状
運動失調の症状(=小脳失調障害) 歩行障害:歩行時にふらつき、顛倒することが多くなる。症状が重くなると歩行困難になる。
四肢失調:手足を思い通りに動かせない。箸をうまく使えない。書いた字が乱れる。症状が重くなると物を掴むことが困難になる。
構音障害:呂律が廻らなくなる。一言一言が不明瞭になり、声のリズムや大きさも整わなくなる。症状が重くなると発声が困難になる。
眼球振盪:姿勢を変えたり身体を動かしたりした時、ある方向を見た時、何もしていないのに眼球が細かく揺れる。
姿勢反射失調:姿勢がうまく保てなくなり、倒れたり傾いたりする。
上記は小脳の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
●運動失調の症状(=延髄機能障害) 振戦:運動時、または姿勢保持時に自分の意思とは関係なく、勝手に手が震える。(=錐体外路障害)
筋固縮:他人が関節を動かすと固く感じられる。(=錐体外路障害)
バビンスキー反射:足の裏をなぞると指が反り返る。(=錐体路障害)
上記は延髄の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
●自律神経の症状(=自律神経障害) 起立性低血圧:急に起きるとめまいがする。
睡眠時無呼吸:眠っているときに呼吸が停止する。
発汗障害
尿失禁
上記は自律神経の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
●不随意運動の障害 ミオクローヌス:非常にすばやい動きをする。
舞踏運動:踊っているような動きに見える。
ジストニア:身体の筋肉が不随意に収縮し続ける結果、筋肉にねじれやゆがみが生じ、思い通りに動かなくなる
●脊髄小脳変性症の分子病態
ポリグルタミン病
SCA1、SCA2、SCA3、SCA6、SCA7、SCA17、DRPLAの7疾患がポリグルタミン病の属する。
これは日本の優生遺伝型脊髄小脳変性症のおよそ2/3を占める。
SCA以外のポリグルタミン病としてはハンチントン病や球脊髄性筋萎縮症が知られている。
ポリグルタミン病では、様々な原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長という共通の遺伝子変異により発症する。
ポリグルタミン病の臨床遺伝学的な特徴としては疾患が発症する域値はおよそ35〜40以上であることが多く(SCA6は短い)、CAGリピート数と疾患の発症年齢、重症度が相関し、CAGリピート数が多いほど発症年齢が早く重症である。
表現促進現象があり、親から子へ伝播する過程でCAGリピートの伸長が認められる。
この点からポリグルタミン病は異常伸長ポリグルタミン鎖自信が原因蛋白質の機能とは無関係に神経毒性を発揮するgain of function仮説が支持されている。
ポリグルタミン病では異常伸長ポリグルタミン鎖をもつ変異蛋白質がミスフォールディング・凝集を生じ、神経細胞内に封入体として蓄積し、蛋白分解の破綻、転写調節障害、軸索輸送障害、ミトコンドリア機能障害など様々な神経機能障害を引き起こし最終的には神経変性に至ると考えられている。
現在RNAiによる変異遺伝子の発現抑制、分子シャペロンによるミスフォールディング抑制、ペプチドや低分子化合物による変異蛋白質の凝集阻害、ユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・リソソーム系の分解の活性化による変異蛋白質の分解促進、その他様々な分子標的治療法の開発が進んでいる。
これらの治療は進行抑制治療法(disease-modifying therapy)である。
このような薬物治療とは別に運動や細胞移植などについても開発がすすんでいる。
●非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)
非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)となるSCAとしてはSCA8、SCA10、SCA12、SCA31、SCA36が知られている。
日本においてはSCA31は極めて頻度の高いSCAであるが、SCA8とSCA36は稀であり、SCA10、SCA12は2012年現在日本での報告例はない。
SCA8とSCA31は臨床的に純小脳失調型であり、SCA10、SCA12、SCA36は特有の付随症状を伴うことが多い。
非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)は筋強直性ジストロフィー1型の原因遺伝子発見以降に次々と報告された。
家族性FTD/ALSも非翻訳領域のリピートとされている。
SCA12を除き共通のメカニズムとしては伸長RNAがリピートが、その結合蛋白と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し核内蛋白制御異常をもたらすことが主な病態であると考えられている。
一般的に翻訳領域のポリグルタミン病と比べて、不安定性が強いこと、リピート数と表現形の相関が弱いことが特徴である。
SCA8は伸長しても未発症のことがあり、このリピート伸長を認めても他の原因疾患を検索する必要がある。
●点変異、欠失変異
古典的な塩基対の置換、挿入、欠失によるSCAとしてはSCA5、SCA11、SCA13、SCA14、SCA15、SCA27、SCA28、SCA35があげられる。
●DNA修復機構の破綻
ハンチントン病と常染色体劣性遺伝性遺伝性小脳失調症(ARCA)の一部でDNAの修復の破綻が病態に関与していることが明らかになっている。
DNA二本鎖切断修復の破綻や癌や免疫不全など神経系以外の臨床症状を伴うのに対して、DNA短鎖切断修復の破綻は神経系にほぼ限局した障害を及ぼす傾向がある。
ラベル:脊髄小脳変性症