2014年07月13日

脊髄小脳変性症とは?(6)

●脊髄小脳変性症とは?(6)


●脊髄小脳変性症の症状

運動失調の症状(=小脳失調障害) 歩行障害:歩行時にふらつき、顛倒することが多くなる。症状が重くなると歩行困難になる。

四肢失調:手足を思い通りに動かせない。箸をうまく使えない。書いた字が乱れる。症状が重くなると物を掴むことが困難になる。

構音障害:呂律が廻らなくなる。一言一言が不明瞭になり、声のリズムや大きさも整わなくなる。症状が重くなると発声が困難になる。

眼球振盪:姿勢を変えたり身体を動かしたりした時、ある方向を見た時、何もしていないのに眼球が細かく揺れる。

姿勢反射失調:姿勢がうまく保てなくなり、倒れたり傾いたりする。

上記は小脳の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。




●運動失調の症状(=延髄機能障害) 振戦:運動時、または姿勢保持時に自分の意思とは関係なく、勝手に手が震える。(=錐体外路障害)

筋固縮:他人が関節を動かすと固く感じられる。(=錐体外路障害)

バビンスキー反射:足の裏をなぞると指が反り返る。(=錐体路障害)

上記は延髄の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。



●自律神経の症状(=自律神経障害) 起立性低血圧:急に起きるとめまいがする。

睡眠時無呼吸:眠っているときに呼吸が停止する。

発汗障害

尿失禁

上記は自律神経の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。



●不随意運動の障害 ミオクローヌス:非常にすばやい動きをする。

舞踏運動:踊っているような動きに見える。

ジストニア:身体の筋肉が不随意に収縮し続ける結果、筋肉にねじれやゆがみが生じ、思い通りに動かなくなる




●脊髄小脳変性症の分子病態

ポリグルタミン病

SCA1、SCA2、SCA3、SCA6、SCA7、SCA17、DRPLAの7疾患がポリグルタミン病の属する。

これは日本の優生遺伝型脊髄小脳変性症のおよそ2/3を占める。

SCA以外のポリグルタミン病としてはハンチントン病や球脊髄性筋萎縮症が知られている。

ポリグルタミン病では、様々な原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長という共通の遺伝子変異により発症する。

ポリグルタミン病の臨床遺伝学的な特徴としては疾患が発症する域値はおよそ35〜40以上であることが多く(SCA6は短い)、CAGリピート数と疾患の発症年齢、重症度が相関し、CAGリピート数が多いほど発症年齢が早く重症である。

表現促進現象があり、親から子へ伝播する過程でCAGリピートの伸長が認められる。

この点からポリグルタミン病は異常伸長ポリグルタミン鎖自信が原因蛋白質の機能とは無関係に神経毒性を発揮するgain of function仮説が支持されている。

ポリグルタミン病では異常伸長ポリグルタミン鎖をもつ変異蛋白質がミスフォールディング・凝集を生じ、神経細胞内に封入体として蓄積し、蛋白分解の破綻、転写調節障害、軸索輸送障害、ミトコンドリア機能障害など様々な神経機能障害を引き起こし最終的には神経変性に至ると考えられている。

現在RNAiによる変異遺伝子の発現抑制、分子シャペロンによるミスフォールディング抑制、ペプチドや低分子化合物による変異蛋白質の凝集阻害、ユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・リソソーム系の分解の活性化による変異蛋白質の分解促進、その他様々な分子標的治療法の開発が進んでいる。

これらの治療は進行抑制治療法(disease-modifying therapy)である。

このような薬物治療とは別に運動や細胞移植などについても開発がすすんでいる。



●非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)

非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)となるSCAとしてはSCA8、SCA10、SCA12、SCA31、SCA36が知られている。

日本においてはSCA31は極めて頻度の高いSCAであるが、SCA8とSCA36は稀であり、SCA10、SCA12は2012年現在日本での報告例はない。

SCA8とSCA31は臨床的に純小脳失調型であり、SCA10、SCA12、SCA36は特有の付随症状を伴うことが多い。


非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)は筋強直性ジストロフィー1型の原因遺伝子発見以降に次々と報告された。

家族性FTD/ALSも非翻訳領域のリピートとされている。

SCA12を除き共通のメカニズムとしては伸長RNAがリピートが、その結合蛋白と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し核内蛋白制御異常をもたらすことが主な病態であると考えられている。

一般的に翻訳領域のポリグルタミン病と比べて、不安定性が強いこと、リピート数と表現形の相関が弱いことが特徴である。

SCA8は伸長しても未発症のことがあり、このリピート伸長を認めても他の原因疾患を検索する必要がある。




●点変異、欠失変異

古典的な塩基対の置換、挿入、欠失によるSCAとしてはSCA5、SCA11、SCA13、SCA14、SCA15、SCA27、SCA28、SCA35があげられる。



●DNA修復機構の破綻

ハンチントン病と常染色体劣性遺伝性遺伝性小脳失調症(ARCA)の一部でDNAの修復の破綻が病態に関与していることが明らかになっている。

DNA二本鎖切断修復の破綻や癌や免疫不全など神経系以外の臨床症状を伴うのに対して、DNA短鎖切断修復の破綻は神経系にほぼ限局した障害を及ぼす傾向がある。
posted by ホーライ at 20:23| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月09日

脊髄小脳変性症とは?(5)

●脊髄小脳変性症とは?(5)


●常染色体劣性脊髄小脳変性症

常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症(ARCA)は常染色体劣性の遺伝形式をとり、進行性の運動失調を中核とする神経変性疾患を包括する概念である。

日本における脊髄小脳変性症の1.8%を占める。

欧米ではフリードライヒ運動失調症が大多数を占めるが、日本では眼球運動と低アルブミン血症を伴う早発型失調症(EAOH/AOA1)が最多である。

常染色体劣性遺伝を疑う時は以下の時である。

両親がいとこ婚または同胞に同症の発症がある、かつ累代発症(別の世代の発症)がないときに劣性遺伝を疑う。

また30歳未満の発症も劣性遺伝を疑う。

症候学的には、後根神経節、脊髄後索の変性を伴う脊髄型、小脳失調以外に多彩な神経症候(多くは軸索型感覚運動ニューロパチー)をともなう小脳型、小脳失調以外の神経症候を伴わない純粋小脳型に大別される。

脊髄型にはフリードライヒ運動失調症、ビタミンE単独欠乏を伴う失調症に代表され下肢に限局しない感覚性運動失調を呈する。



小脳型は毛細血管拡張運動失調症や眼球運動と低アルブミン血症を伴う早発型失調症が含まれる。

純粋小脳型は極めて稀である。DNA修復の破綻が複数の常染色体劣性脊髄小脳変性症の病態に関与していると考えられている。

またいくつかの疾患では早期治療が可能である。

代表例がビタミンE単独欠乏を伴う失調症(AVED)でありα-トコフェロールの内服で治療可能である。



●フリードライヒ運動失調症(FRDA)

1863年にフリードライヒが脊髄癆や多発性硬化症とは異なる同胞間にみられる遺伝性の脊髄性失調を呈する疾患を報告した。

日本での報告例は2009年現在ない。

欧米白色人種に強い創始者効果があり、5万人に1人と高頻度に認められる。

10歳前後が発症のピークであり罹患期間5〜50年と幅があるが30〜40歳で死亡することが多い。


●遺伝性痙性対麻痺

遺伝性痙性対麻痺(HSP)は緩徐進行性の下肢痙縮と筋力低下を主徴とする神経変性疾患群である。

痙性対麻痺のみをしめす純粋型と痙性対麻痺に加えて、小脳失調、ニューロパチー、脳梁の菲薄化、精神発達遅延、痙攣、難聴、網膜色素変性、魚鱗癬などの随伴症状を認める複合型に分かれる。

常染色体優性遺伝の場合は純粋型が多く、常染色体劣性遺伝や伴性劣性遺伝では複合型が多い。

分子遺伝学的にはSPG1〜56およびシャルルヴォア・サクネ型痙性失調症(ARSACA)などに分類される。



●シャルルヴォア・サクネ型痙性失調症(ARSACA)

伴性劣性遺伝の遺伝形式をとる小脳失調を伴う遺伝性痙性対麻痺である。

血族婚のある幼小児期発症の痙性失調であり頭部MRIで橋の線状のT2短縮病変や両側中小脳脚のT2短縮病変が認められた場合に疑われる。

原因遺伝子としてSACS遺伝子が知られている。

posted by ホーライ at 04:54| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月07日

脊髄小脳変性症とは?(4)

●脊髄小脳変性症とは?(4)

●SCA36

50歳移行に小脳失調で発症し後年になって舌や四肢の筋萎縮や脱力、繊維束性収縮など運動ニューロン障害を呈する疾患である。

罹患期間が長くなるとMRIで脳幹萎縮も認められる。

舌萎縮はSCA1、SCA3でも認められることがあるがSCA36では圧倒的に多い。

岡山県と広島県の県境にある芦田川流域で多い。




●DRPLA

歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は小脳歯状核赤核路と淡蒼球ルイ体路の系統変性を主病変とする遺伝性疾患である。

有病率は10万人対0.6人と推定される。

平均罹患年数はおよそ11年とされている。

DRPLAは日本では常染色体優性遺伝性SCAの1割を占め、SCA3、SCA6、SCA31についで多い。

原因遺伝子は12番染色体にあるatrophin-1遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸長である。

48以上で病的である。CAGリピート数でにより発症年齢が小児から中年期まで幅広く分布する。

発症年齢により臨床症状が異なる。

20歳未満で発症する場合は進行性ミオクローヌスてんかん型(PME)である。

自発性ミオクローヌスやてんかん発作、知能低下が主症状となる。

小脳失調も認められるがミオクローヌスや舞踏運動などで目立たないことがある。



40歳以降に発症する場合は小脳失調と舞踏アテトーゼが主症状となる。

顕著な表現促進現象により同一家系内でも多様な臨床像と呈することが特徴である。


理学的には小脳歯状核の萎縮と淡蒼球ルイ体系の萎縮が認められる。

加えて脳幹、大脳皮質の萎縮が認められる。

歯状核ではグルモース変性が認められる。

これは小脳皮質がほぼ保たれている状態で歯状核の神経細胞が変性した際に認められる所見である。

抗ポリグルタミン抗体IC2を用いた免疫染色では変異atrophin-1蛋白質の神経細胞核内封入体や核内のびまん性蓄積を認める。

頭部MRIでは小脳萎縮や脳幹(特に被蓋部)萎縮、大脳萎縮を認める。

また遅発成人型では大脳白質にびまん性のT2延長病変が認められる。

ハンチントン病で特徴的な尾状核頭部の萎縮は認められない。

posted by ホーライ at 05:33| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月04日

●脊髄小脳変性症とは?(3)

●脊髄小脳変性症とは?(3)


●SCA6

第19番染色体短腕に位置する電位依存性Caチャネルα1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A)のCAGリピート伸長により発症する常染色体優性遺伝性の脊髄小脳変性症である。

ポリグルタミン病の一つである。

CAGリピート数は20以上で異常伸長である。

日本においては遺伝性脊髄小脳変性症の2〜3割を占める。

発症の平均年齢は45歳と比較的高齢であり、ほぼ純粋な小脳失調を呈する。

画像上は小脳虫部に上面に強い小脳萎縮が認められる。

脳幹や大脳は保たれる。

小脳のプルキンエ細胞、顆粒細胞、延髄下オリーブ核の神経細胞に強い変性が及ぶ。

変性は小脳虫部上面のプルキンエ細胞に強い。

神経細胞には変異Caチャネルα1Aサブユニット蛋白の凝集体を認める。

これらの封入体はプルキンエ細胞のみに存在し、主に細胞質内に存在し、抗ユビキチン抗体陰性である。

他のポリグルタミン病では核内に封入体形成するため特徴的な所見である。

なおCACNA1Aは反復発作性失調症2型(EA2)と家族性片麻痺性片頭痛の原因遺伝子でもある。


●SCA31

第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。

感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。

世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。

日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。

日本に固有のSCAであり、家族性脊髄小脳変性症の27.4%におよぶ。

同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。

高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。

2009年に原因遺伝子の同定がされ、BEAN(brain expressed assosiated with NEDD4)とTK(thymidine kinase 2)がイントロンとして共有する位置に挿入された5塩基の繰り返し配列が原因と判明した。

これは非翻訳領域のおけるリピートであり、伸長RNAリピートが、その結合蛋白と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し核内蛋白制御異常をもたらすことが主な病態と考えられている。

同様のRNAリピート病の病態を示すものとしては筋強直性ジストロフィーなどがあげられる。

病理学的には肉眼所見では小脳虫部上面に萎縮が認められる他は著変はない。

ミクロ所見では小脳虫部の前方部分を中心にプルキンエ細胞の脱落などの変化が著明であった。

下オリーブ核を含めて脳幹や大脳には異常所見はなく、HE染色では残存したプルキンエ細胞のまわりを厚い好酸性の物質が囲んでいるのがみえる。

calbindin-D28kとsynaptophysinに対する免疫染色で陽性を示す。

プルキンエ細胞の成分と他の神経細胞からの神経前終末が存在すると考えられている。

他の疾患ではみられないSCA31に特異的に認められる病理所見である。

またプルキンエ細胞核内にリピートRNA凝集体を認める。

これは同じRNAリピート病であるSCA8やSCA10と同様の所見である。


posted by ホーライ at 05:00| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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