●遺伝性
遺伝性脊髄小脳変性症は優性遺伝のものと劣性遺伝のものがあり、原因遺伝子によって分類される。
欧米では劣性遺伝のものが多いが、日本では圧倒的に優性遺伝が多い。
2009年現在脊髄小脳変性症は31型まで報告されている。
従来、遺伝性OPCAまたはMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの多くはSCA1、SCA2、SCA3のいずれかであり、遺伝性皮質性小脳萎縮症またはHolmes型遺伝性脊髄小脳変性症と呼ばれていたものの半数はSCA6であり、残りの多くはSCA31であったと考えられている。
Hardingの分類では常染色体優性遺伝性小脳失調(ADCA)を3群に分けている。
ADCAT群は錐体路障害や錐体外路障害、末梢神経障害や認知症を伴い、ADCAU群は網膜黄斑変性症を伴う、ADCAV群は純小脳失調である。
日本ではSCA3が最も多く、次いでSCA6、SCA31が多い。
欧米に比べてSCA1、SCA2は少ない。
劣性遺伝のものは全体に1.8%程度である。EAOHが半数をしめる。
●1.常染色体優性遺伝 脊髄小脳失調症1型(SCA1)
脊髄小脳失調症2型(SCA2)
脊髄小脳失調症3型(SCA3、通称:マシャド・ジョセフ病)
脊髄小脳失調症6型(SCA6)
脊髄小脳失調症7型(SCA7)
脊髄小脳失調症10型(SCA10)
脊髄小脳失調症12型(SCA12)
脊髄小脳失調症は2012年現在で36型まで発見されている。
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
2.常染色体劣性遺伝
フリードライヒ失調症(FRDA)
ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED)
眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性小脳失調症(EOAH)
※日本ではマシャド・ジョセフ病の患者が最も多い。
●SCA1
第6染色体にあるataxin-1遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸展が原因である。
1974年に日本の矢倉らによりSCA1の遺伝子座第6染色体のHLA上に連鎖することが発見された。
異常リピート数は39以上である。
日本では東北、北海道に多く、東北と北海道の例には創始者効果も認められる。
発症年齢は若年〜中年期と比較的幅が広いが30〜40歳代の発症が多い。
歩行障害などの小脳性運動失調で発症し、根音障害、嚥下障害などに加え、眼球運動障害、腱反射亢進などの錐体路徴候、錐体外路徴候、認知機能低下などが出現する
。従来Menzel型遺伝性脊髄小脳変性症と言われていたものの大半はSCA1、SCA2、SCA3のいずれかに含まれると考えられている。
SCA1の臨床的な鑑別には錐体路、錐体外路徴候およびの眼の徴候が重要となる。
SCA1はSCA3程眼振が目立たず、ジストニアや痙性も目立たないのが特徴である。
病理学的には小脳皮質、歯状核、脳幹などに変性が認められる、異常伸長ポリグルタミン病を認識する抗体(IC2)を用いた免疫染色では神経細胞核内に変異ataxin-1蛋白質の封入体が認められる。頭部MRIでは小脳萎縮や脳幹萎縮が認められる。
●SCA2
SCA2は第12染色体にあるataxin-2遺伝子内のCAGリピート配列の異常が原因と考えられている。
異常リピート数は32以上である。発症は30〜40代が多い。
小脳性失調で発症し早期から緩徐眼球運動、末梢神経障害を含む腱反射の低下が認められるのが特徴である。
錐体外路症状としてパーキンソン症候群、ミオクローヌス、ジストニア、ミオキミアといった不随意運動なども認められることがある。
緩徐眼球運動と腱反射の低下がその他のMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症のとの鑑別で重要視される。
緩徐眼球運動では比較的なめらかな緩徐な追従運動は保たれているが随意性、反射性ともに速い眼球運動は障害される。
主に水平性眼球運動が障害される。頭、眼の共同運動は保たれる。
輻湊運動は障害されない。固視反射の増強がみられるという特徴がある。
病理学的には小脳皮質、大脳基底核、脳幹、脊髄の変性を認める。
抗ポリグルタミン抗体のIC2陽性の核内封入体を認める。
頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮が認められる。
●SCA3
かつてはMarie病(spinopontine atrophy)として分類されていた疾患である。
SCA3とMJD(Machado-Joseph病、マジャド・ジョセフ病)は当初は別の疾患として報告されていたが両者の原因遺伝子が同一であったという経緯からMJD/SCA3と記載されることがある。
MJDはポルトガル領アゾレス諸島出身者に伝わる稀な遺伝性運動失調症とされていた。
1970年台に最初に報告さえた3家系Machado家、Thomas家、Joseph家がいずれもポルトガル領アゾレス諸島から米国への移民であったためそのように考えられた。
SCA3はフランスのグループにより報告されていた。
原因遺伝子は第14番染色体長腕に存在するMJD1遺伝子である。
MJD1遺伝子はataxin-3をコードしているが、このたんばく質の機能は不明である。
CAGリピートの延長が発病に関与するトリプレットリピート病である。
日本でも欧米でも優性遺伝性脊髄小脳変性症(ADSCD)で最も頻度が高い疾患である。
異常リピートは53以上で病的となる。古典的には臨床症状から4病型に分類される。
これは発症年齢によって臨床症状が異なり、若年発症では錐体外路症状が目立ち、高齢になるほど小脳失調と末梢神経障害が目立つという経験からの分類である。
しかしSCA3のスペクトラムは広く、非典型例としては痙性対麻痺型や純小脳失調型なども報告されている。
病理学的には小脳歯状核、大脳基底核、脳幹、脊髄特に胸髄の変性は認められるが、小脳皮質は比較的保たれる。
歯状核神経細胞は萎縮し、プルキンエ細胞の神経終末の二次的変性であるグルモース変性が認められる。
この変性は小脳皮質が比較的保たれ、かつ歯状核神経細胞の萎縮があるときに認められる所見である。
抗ポリグルタミン抗体IC2陽性の核内封入体を認める。
淡蒼球は内節優位に障害されるため淡蒼球外節優位に障害されるDRPLAとは異なるが両者の区別は遺伝子検査が有用である。
頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮(特に被蓋部)が認められる。
ラベル:脊髄小脳変性症