2014年09月24日

多発性硬化症とは(3)

●レルミット徴候

頚髄が障害された場合には頸部を他動的に前屈させると肩から背中にかけて脊柱にそって下方へ放散する電気ショック様の痛み(電撃痛)がはしる。これをレルミット徴候という。

視神経炎

MSの25%に初期症状として球後性視神経炎がみられる。視力の低下、視野の異常、中心暗点が特徴的である。

複視


複視は眼筋麻痺で生じ、核間性眼筋麻痺または外転神経障害によって生じる眼球運動障害である。MSでは核間性眼球麻痺が両側性に生じるのが特徴である。このほかにMSでよくみとめられる注視麻痺には水平性注視麻痺、一眼半水平注視麻痺症候群(one and a half syndrome:水平性注視麻痺と同側の核間性眼筋麻痺)、後天性振子様眼振などがある。

急性脊髄炎(横断性脊髄炎)

MSの場合は脊髄炎は左右非対称に生じ、不完全であることが多い。急性脊髄炎のみがみられその他の脱髄性病変が示唆されたない場合には全身性エリテマトーデスや混合性結合組織病、抗リン脂質抗体症候群による可能性も考慮する、

四肢の筋力低下痙縮感覚障害小脳失調症

眼振、断綴性言語、企図振戦はシャルコーの三主徴として知られている。

膀胱直腸障害認知機能障害疲労




検査

MRI


2010年改訂McDonald診断基準においてMSの診断においてMRIの重要性がますます高まった。

診断目的の場合は造影MRIを加える事でより早期診断ができる可能性がある。

無症候性Gd増強病変と非造影病変が同時に認められた場合はは1回のMRIで時間的多発性(DIT:dissemination in time)の証明ができるようになった。

最初のMRIから時期を問わないフォローアップMRIにて新規T2延長病変またはGd増強病変を認めた場合もDITの証明が可能になった。

空間的多発性(DIS:dissemination in space)においてもMRIは重要な役割を果たす。


脳室周囲(periventricular)、皮質近傍(juxtacortical)、テント下(infratentorial)、脊髄(spinal cord)の4領域のうち2つ以上の領域においてそれぞれ1個以上のT2延長病変を認めれば空間的多発性を証明したことになる。


なお脳室周囲と皮質近傍に病変ができやすい。

MRIの撮影条件としてはテント上病変はT2WIよりもFLAIR画像の方が優れているが脳幹と基底核のMS病変はFLAIRよりもT2WIの方が優れている。

MSにおけるMEI上の病変のひとつにovoid lessionがあげられる。これは楕円形の病変であり脳室に対して垂直に存在しDawson's fingerと呼ばれる。

確認するにはFLAIR画像の矢状断が最も適している。

病巣の活動性の評価のためしばしば造影MRIが施行される。open ring signはMSに比較的特異的とされる。

MSの造影病変は4〜6週間持続するが数ヶ月持続することはなく、脳膿瘍や脳腫瘍との鑑別になる。

また造影病変はRRMSで多く見られPPMSでは少ない。T2WIで高信号を呈する病変の中にT1WIで低信号を示すものがありblack holeとよばれる。

視神経炎を疑うときに冠状断MRIで死亡抑制T2WIで高信号に視神経が描出されることがある。

視神経炎の活動性評価のために脂肪抑制GdT1WIを撮影することもある。MRSもよく用いられる。

またMSを疑うときは脳MRIだけではなく全脊髄MRIも撮影する。神経症状の増悪を認めなくとも定期的なMRI撮影が必要である。

画像上病変の増加が認められることがある。


注意するべきこととしてMRIで異常が認められなくともMSの再発は否定出来ない。

髄液検査でも異常が見られないこともあり、症状から再発が強く疑われたときは画像所見、髄液所見の結果に関係なくステロイドパルスを思考するべきという意見もある。

posted by ホーライ at 03:56| 神経・筋関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月18日

多発性硬化症とは(2)

●多発性硬化症の症状

MSは寛解と再発を繰り返す中枢神経系の炎症性脱髄を主として軸索変性を伴う疾患である。

MSは中枢神経系脱髄疾患のなかで最も多く、炎症、脱髄、グリオーシスを三主徴とし寛解、再燃、進行性の経過をとる。



突然健康な若年成人を主として侵す疾患であり、時に発症数週間から数ヶ月間疲労、脱力感、筋痛、関節痛がみられることもある。

発症は急激なこともあれば気が付かないまま進行していることもある。

初発時の発症様式は脳卒中のように数分から数時間で急激に発症する場合が20%ほどにみられる。

30%で1日から数日間かけて症状が進行し、さらに20%では数週から数ヶ月間かけて症状が進行する。



発症があきらかでないまま徐々に症状が進行し数ヶ月から数年にかけて慢性または間欠的に症状が進行するものもある(PPMS)。

発症の誘因としては何もないことが多いが誘因として過労、ストレス、感染などが上げられている。


また妊娠中は再発が少なく、出産後に再発することが多い。前駆症状がない場合が多いが、時に頭痛、発熱、感冒様症状、悪心、嘔吐などが10%程度に認められる。

また過呼吸や動作時などに急に構音障害や失調症、手足のしびれや痒みなど突発性発作が現れることがある。




MSの初発症状は脱髄病巣の部位によって多彩である。

神経学的所見では無症状であると考えられた部位にも異常が認められることがある。

実際に自覚症状が片側であっても、神経学的所見では両側に異常が認められることもある。



四肢のしびれは初期のMSでは50%ほどに認められる。

背下部の鋭い痛みは病変部位との関連は不明であるがよく認められる。


日本では視力低下が最も多く、上下肢の運動麻痺、四肢頸部体感などのしびれ感がこれにつぐ。


発症の状態は1〜3日で神経症状の完成する急性ないし亜急性が多い。

全経過中に出現する頻度は視力低下や視神経萎縮が多い。


MSでは中枢神経障害に基づく症候であればどんなものでも出現しうる。


欧米に比べると日本人では急性横断性脊髄障害の頻度が高く、逆に失調症や企図振戦の頻度は低い。

視神経炎が両側に起こり失明に至るような顕著な視力低下を呈する場合にはMSよりも視神経脊髄炎の可能性が高い。

MSと診断された後は多くの神経症症候が定期的に生じうる。

全身型のMSではおよそ半分くらいに視神経炎、脳幹、大脳、脊髄障害の症状や徴候が様々な程度呈してくる。

30〜40%位に四肢に深部異常感覚や脊髄性失調がおこる(脊髄型)。

小脳型または延髄橋小脳型は5%にくらいにしかみられない。


posted by ホーライ at 01:44| 中枢性脱髄疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月30日

難病助成 100余の病気を先行指定へ

●難病助成 100余の病気を先行指定へ

難病の医療費の助成制度が見直され、来年から対象が大幅に増えますが、厚生労働省の専門家会議はALS=筋萎縮性側索硬化症など100余りの病気

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140728/k10013350891000.html



●指定難病の検討の進め方について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000052380.pdf



●指定難病検討委が初会合、8月中に1次選定へ  医療費助成の対象疾患は「18万人未満」
http://www.advance-news.co.jp/news/2014/07/post-1226.html



●難病の患者に対する医療等に関する法律施行令(案)に関する御意見の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495140142


posted by ホーライ at 03:23| 難病・特定疾患のニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

多発性硬化症とは?

●多発性硬化症とは

多発性硬化症(たはつせいこうかしょう、英: multiple sclerosis; MS)とは中枢性脱髄疾患の一つで、脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患である。

日本では特定疾患に認定されている指定難病である。




●多発性硬化症の疫学

中枢性脱髄疾患の中では患者が最も多い。

北米、北欧、オーストラリア南部では人口10万人当たり30〜80人ほど罹患しているが、アジアやアフリカでは人口10万人当たり4人以下で、人種によって罹患率に大きな差があることが特徴である。

南米、南欧、オーストラリア北部はその中間である。全体としては高緯度のほうが罹患率は高く、日本国内でも北海道と九州では北海道のほうが高い。

日本での有病率は増加してきており、10万人あたり8 - 9人、人口辺り約12,000人程度であることが2006年神経免疫班会議で報告されている。

罹患のピークは30歳頃であり、約80%が50歳までに発症する。また女性に多い。




●多発性硬化症の原因


さまざまな説が唱えられているが未だ原因は不明である。

このうち遺伝、自己免疫、ウイルスなどの感染の可能性が高いと思われている。


・遺伝

アジア・アフリカ系と欧米系で罹患率が大きく異なることから遺伝的要因が示唆されている。

罹患率の高い地域に住む先住民の罹患率が高いわけではないということは遺伝説を支持する要因だが、罹患率の少ないとされる日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られている。

家族内での発症は決して高いわけではなく、複数の遺伝子が発症に関わると思われている。



・感染

再発と寛解を繰り返すという病態からウイルス感染が疑われている。

しかし、今まで報告されたウイルスは数多くあるものの、どれも特異的な関連ははっきり示されてはいない。



・自己免疫

根拠は不十分であるものの、免疫異常を疑わせる所見がいくつか見られる。

以下にその一例を示す。病巣の周囲にリンパ球やプラズマ細胞が集まっている

免疫グロブリンが沈着

サプレッサーT細胞が減少し、ヘルパーT細胞のTh1タイプが増加

免疫抑制剤が治療に有効


日本をはじめとするアジア地域では、視神経と脊髄を病変の主体とする比較的症状の重い視神経脊髄型多発性硬化症が多いとされてきたが、2004年に多くの視神経脊髄型多発性硬化症の血液中に特異的な自己抗体が存在することが発見された。

その後、この自己抗体はアクアポリン4(AQP4)という水チャンネルを認識することがわかり、容易に測定可能となった。

現在、視神経脊髄型多発性硬化症は欧米の視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica)と同一病態と考えられている(下記項目も参照のこと)。




●多発性硬化症の分類

自然経過から多発性硬化症は再発寛解を繰り返す再発寛解型MS(RRMS:relapseing-remitting MS)と発症当初から慢性進行性の経過をたどる一次性進行型MS(PPMS:primary progressive MS)に大別される。

再発寛解型MS(RRMS)の約半数は発症後15〜20年の経過で再発がなくても次第に障害が進行するようになり二次性進行型MS(SPMS:secondary progressive MS)という名称となる。

再発は炎症過程を示しており進行は変性過程を示していると考えられている。

欧米白人ではRRMSが80〜90%でありPPMSが10〜20%を占めるが日本人ではPPMSは5%前後である。

RRMSとPPMSは治療に対する反応性の違いから異なる疾患とする立場と、長時間の自然経過の観察に基いてRRMSもPPMSも同じような年齢で同様な障害度に進行することから、1つの疾患の異なる表現型とする立場がある。

EDSSスコアで4に達するまでの期間(進行のスピード)は病型によって異なるがスコア4からスコア6に至る期間は病型は再発の有無に関係なく一定である。

スコア6にはPPMSでは49歳、RRMS/SPMSでは48歳であり、スコア8に達するのはともに58歳である。


posted by ホーライ at 03:09| 中枢性脱髄疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月25日

もやもや病について(2)

本疾患は原則両側性に起こるが、その程度は様々である。

一方の内頸動脈の狭窄は重度であるがもう一方は極めて軽度であるということもある。

以下に小児と成人の初発症状で多いものを示す。



●小児例

反復性の頭痛

脱力発作

痙攣

失神



●成人例

脳出血

片麻痺

頭痛

意識障害



●もやもや病の合併症

小児例では知能障害、成人例では脳出血



●もやもや病の原因

原因となる感受性遺伝子はRNF213遺伝子の多型p.R4810Kである。

(感受性遺伝子とは疾患への感受性を高める遺伝子をいい、遺伝子異常だけで起こる原因遺伝子とは区別される。)


RNF213をクローニングしたゲノムは591-kDaの細胞質に存在するタンパクをコードしており、ゼブラフィッシュによって発達期にこの遺伝子の発現を抑制すると、頭蓋内の眼動脈や脊椎動脈の分岐の異常が出ることから、血管形成に重要な新たな遺伝子であることも分かった。

また、この遺伝子を持っている人が全て発症するわけでなく、環境要因の関与も疑われている。

さらにp.R4810Kは推定1万5千年の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることも分かり、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子であることも分かった。


(特定までの流れ)

2008年 15家系を用いた研究で、17番染色体の長腕の終末部領域に100個以上の遺伝子が存在することを見出し報告された。

2010年 17番染色体の長腕の終末部領域の遺伝子「Raptor」を道しるべとして原因遺伝子が検索できることが報告された。

2011年 17番染色体の候補領域にあるRNF213という遺伝子の4810番目のアルギニンがリジンに代わる多型(p.R4810K)が機能異常に結びつく多型と結論づけられた。




●もやもや病の統計

年間発症率は10万人あたり0.35-0.5人と推定されている。

日本では年間約400-500人程度の新患の登録があり、常に約4000人の患者がいる。

男女比は1:1.7、好発年齢は5歳と30〜40歳の2峰性を示す。

小児では脳虚血症状が多いのに対して成人では出血発症が多い。

約15%に家族歴があるとされている。




●もやもや病の疫学

原因遺伝子のp.R4810kは、およそ1万5000年前のアジア大陸における祖先においてもやもや病感受性変異が起きたとされ、アジア、特に中国、韓国、日本人に多く確認されている疾患であり、中でも日本が最も患者数が多い。

欧米・白人集団では原因となるp.R4810Kが確認されないことから発生頻度が極めて少ない。



一次予防

DNA型鑑定により早急に手術適応のある症例かどうかを判断する指標(遺伝子マーカー)の有無を調べることが最も有効とされている。

遺伝子マーカーは現在解明されているものでR213遺伝子の多型であるc.14576G>Aがある。

この多型を所持する場合のもやもや病発生リスクは通常の259倍である。

さらにこの多型はもやもや病の発生時期も予測しうる遺伝子マーカーである。

c.14576G>Aがホモ接合体の場合の予測発症時期は3歳前後、ヘテロ接合体の場合は7歳前後、そのどちらでもない野生型の場合は8歳前後となっている。

(ホモ接合型:父母由来のそれぞれの遺伝子座の両方に同じ変異がある状態。ヘテロ接合型:父母由来の遺伝子座のどちらか一方にのみ変異がある状態。野生型:正常な(本来の)機能を有するもの。詳しくは対立遺伝子の項目)



二次予防

片頭痛や癲癇として見逃されている例が多いため、繰り返す頭痛や痙攣発作がある場合はもやもや病を疑い、MRIやMRAと合わせてDNA型鑑定を受ける。



三次予防

激しい運動は脳虚血や脳出血を誘発する恐れがあるため、極力避けるようにする。




●もやもや病の診断

原則は脳血管撮影で診断するが、MRI並びにMRAできちんと診断基準を満たせば、必ずしも脳血管撮影は必要としない。

ただし病期が初期であった場合には、MRAでは確認が難しいことが多いので注意を要する。


●もやもや病の治療

内科的治療(薬物治療など)ではこれまで有効とされてきた治療法はない。

ただし虚血例に対しては抗血小板療法、出血例では高血圧治療などが行われる。

外科的治療に関しては、一過性脳虚血発作例に対して脳血行再建術を行う。

これには直接的にバイパスを作る術式(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が一般的)と、間接的にバイパスを作る術式(脳表に筋膜や翻転した硬膜、骨膜などを敷きこんで血管新生を期待する)、並びに両者を併用する術式がある。

一方、成人に多い出血発症例に対して脳血行再建術を行うかどうかは、現在日本でJapan Adult Moyamoya Trial (JAM trial)が進行中であり、この結果が待たれる。


●もやもや病の予後

小児例での急速進行例では、重篤な知能障害が後遺症として残ることが多い。

成人例では、脳出血を起こした後に再出血し死亡率が高い。


以上

posted by ホーライ at 01:07| 脳に関する病気 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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